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小川洋子 藤丸由華 ケストナー 飛ぶ教室 Melodious Library 2016/12/18

ケストナー 飛ぶ教室

小川洋子 藤丸由華 

Melodious Library  2016/12/18

ケストナー 飛ぶ教室

ドイツの作家エーリヒ・ケストナーの児童文学というと、今までにも

「エーミールと探偵たち」や「点子ちゃんとアントン」を取り上げていますが

今回はクリスマスに合わせて「飛ぶ教室」を選んでみました 

飛ぶ教室 [ エ-リヒ・ケストナ- ]

「飛ぶ教室」は、1933年の発表以来、世界中で読み継がれている童話です

「エーミールと探偵たち」のように少年がいっぱい出てくる物語…

寄宿舎で暮らす少年たちのお話です

クリスマスシーズンに起こる事件や様々な出来事が描かれています

クリスマスプレゼントにもピッタリな本ですよ

今回は、池田香代子さん翻訳による岩波少年文庫で読み解いていきます

 

飛ぶ教室 [ エ-リヒ・ケストナ- ]

前書きの逸話

さてページを開くと、前書きがなんと!ふたつ掲載されているんです

この「前書きその1」には

作者であるケストナー本人とお母さんとのやりとりが書かれていて

とっても面白いんです

「今年こそ書かなかったらクリスマスプレゼントはなしですよ!」

というお母さんの言葉があります

なかなか厳しい編集者ですね〜笑

執筆のためにケストナーは山へ行くことになります

夏なんですけれど冬のお話ということで

夏でも雪がふっている高い山のある地方に行くのですが

本当にうらやましいんですが、最高の執筆環境だと思うんです

広い草原の真ん中にテーブルでね…クリスマスの物語を書いている、という

こんな環境だったら、どんなに良いお話がかけるかな〜と思います

16ページにその絵が、挿絵が描かれています、一生懸命お仕事してます

夕方の決まった時間になると子牛が迎えに来る…という

牛とか猫がね、可愛らしく描かれています

飛ぶ教室 [ エ-リヒ・ケストナ- ] 

続いて「前書きその2」読んでいきましょう

ここにね、とても心に突き刺さる文章があります

『人生何を悲しむかではなく、どれくらい深く悲しむかが重要なのだ

誓ってもいいが、子どもの涙は大人の涙より小さいなんてことはない

大人の涙よりも重いことだっていくらでもある』

これはね、のちのちこのお話を読んでいけばうなずける文章なんです…

『大事なのは、正直であることなんだ、骨の髄まで正直であるべきだ』

というような文章も出てきます

これを読むとね…

子どもや子どもの本に対するケストナーの強い思いが伝わってきます

あぁこの人はやっぱり自分の子供の頃のことをちゃんと覚えているし

いつでも当時の子どもの自分に戻れる作家なんだな〜と思います

そして「飛ぶ教室」に登場するヨナタン・トロッツ

という少年のことが前書きの段階で少し紹介されています

愛称はジョニーです

このジョニーはこのお話の主人公ではないんだけれど

このお話の中でお芝居の脚本を書くという

非常に才能豊かな少年なんです

しかし気の毒な生い立ちで4才のときに両親に見捨てられ

ひとりでアメリカからドイツへ渡ってきたという生い立ち…

『不運はしっかり目を開いて見つめることを学んで欲しい

うまくいかないことがあってもオタオタしないで欲しい

しくじってもシュンとならないで欲しい。へこたれないでくれ

くじけない心をもってくれ』

と、ここでもジョニーの生い立ちについて語りながら

子どもたちへの熱いメッセージが託されています

飛ぶ教室 [ エ-リヒ・ケストナ- ]

ジョニー

舞台はドイツのキルヒベルクという場所にある寄宿舎

ギムナジウムと呼ばれる9年制の高校の寄宿舎です

小学校5年生から中学・高校までの少年が暮らしている

クリスマスに発表する「飛ぶ教室」という劇の練習をしようとしているグループがあります

この「飛ぶ教室」という劇の脚本を書いたのがジョニー

この劇を上演するのは5年生。日本の数え方で言うと中学3年生でしょうか…

そのグループです

体育館で練習しようとするんですが、上級生がダンスの練習をしていて

場所をゆずってくれないんです

ここでちょっとイザコザになります

でもね5年生たちは決してひるまず

「ちゃんと上級生でもキマリを守ってもらわなくちゃ困ります」と

断固たる姿勢でのぞみます

このシーンでも早速この5年生たちの

グループのチームワークの良さというのがあらわれています

飛ぶ教室 [ エ-リヒ・ケストナ- ]

魅力的な登場人物たち

この物語には、ジョニーの他にも様々な登場人物がいます

一応主人公と言っていいんでしょうかね〜

学校で成績のいいマルティン、リーダー格の男の子です

先程の体育館の使用の件についても、上級生との交渉をやってのける

そして彼は絵がうまいんですよね…

この「飛ぶ教室」の舞台美術を担当しています

ただおうちが貧しいんですよ…

そのことがのちのち、このストーリーにも関わってくるんですけど

だから両親にクリスマスのプレゼントを買ってあげるお金がないので

かわりに絵を描いてプレゼントするという…ホントに泣かせる少年なんです

 

そして大体こういう集団には一人はいますよね〜

いつもお腹がすいているというマティアスという少年

勉強は苦手だけれどもケンカが強くて、将来はボクサー志望

私が笑っちゃったのは

「オレは食えば食うほどアタマの働きが良くなるんだ」

というセリフが出ています

「逆にお腹が減ると記憶力がにぶる」

典型的な、気は優しくて力持ち…という少年でしょうか?

 

その他にもクールなセバスチアン

大人ぶった虚無的な雰囲気をまとった少年とか

 

私が一番ほっとけないなぁという雰囲気を持ったのがウーリです

貴族の生まれで育ちはいいんですが、小柄な体をもった気の弱い男の子

 

いずれにしましても一人一人の個性が丁寧に描き分けられていましてね

登場人物は多いんですけど名前を読めば

その姿がパッと自分なりに思い浮かぶような…そういうお話です

大人でも印象的な登場人物がいます

まず「禁煙さん」この名前の付け方がとっても絶妙ですよね!

なぜ禁煙さんなのか?この人はね〜

市民農園に古い客車(汽車)を家代わりにして住んでいる

ちょっと世捨て人風な、謎めいた男の人です

その客車に「禁煙」と書いてあるんで、みんな「禁煙さん」と呼んでいる

少年たちはね〜みんなこの禁煙さんをとても信頼して頼りにしていて

他の誰にも言えない問題がもちあがったとき、相談に乗ってもらったりします

寄宿舎という狭い場所に閉じこめられた世界に住んでいる子どもたちを

1歩はなれたところから常に見守って

新鮮な空気をおくりこむような役目を果たしているような人物

 

そしてもう一人「正義さん

この正義さんは寮の舎監、寮の先生のベク先生

これまた生徒思いな誠実な尊敬されている先生です

いつでも正しい道を示してくれる、だから正義先生なんですね…

で、のちのちこの「禁煙さん」と「正義先生」が実は!

という驚きの展開になっていきます

飛ぶ教室 [ エ-リヒ・ケストナ- ]

 

Q,印象に残ったのは、どんなエピソードでしょうか?

 

実業高校の生徒と対立するシーン

人質を取られて大事な書き取りのノートを燃やされるという一大事件が起こります

いろいろなドタバタがあるんですが

決着は、ボクサー志望の食いしん坊のマティアスが

相手をボクシングでやっつけるという

しかしこれはただのケンカじゃないんです…ひとりひとりが

自分の得意分野の役目を果たす頭脳戦でもあるんです

で、局面局面ポイントで「禁煙さん」がアドバイスを送るという

こっちのチームには禁煙さんがいるということが有利だったんですね

実業高校には、そういうタイプのアドバイザーがいなかった

そしてこの難局を無事乗り切る!という一大事件がありました

飛ぶ教室 [ エ-リヒ・ケストナ- ]

ジョニーが戯曲を書いた「飛ぶ教室」は?

これがまたよくできたお話でね〜

五幕もので、予言的な作品…未来の学校はこんなふうになっている

ということを描いています

先生役はちょっとニヒルなセバスチアン

クラス全員を連れて空の旅に出る

地理の授業を、それぞれの現地で行うわけです

予言的なお話ですから、そいうことができるわけです

火山に行ったり、ピラミッドに行ったり、北極を旅したりする

そして最後、五幕では、天国に行くんですね

ここがまた素晴らしい発想なんですよね…

セリフが詩になっていたり、孤独への讃歌を歌ったり

とても面白そうでね

この「飛ぶ教室」を観劇したいな…と思いました

 

飛ぶ教室 [ エ-リヒ・ケストナ- ]

ウーリの勇気

私がひいきにしておりますウーリが最大の勇気を発揮する場面があります

いつも力持ちのマティアスのうしろに隠れて

自分は弱虫だと思いこんでるウーリが、ある日反乱を起こします

校庭の高い鉄梯子の上から開いたカサを持って飛び降りるという

パラシュート代わりにして…つまり勇気ある自分に生まれ変わろうとするんです

ボクは弱虫じゃないぞ!というところをみんなに見せようと思って

無茶なことをして、案の定足の骨を折るんですね

ここで感動的なのは、この事故のことをマティアスが

「自分のせいだ」と後悔する場面が泣かせるんです

『「なぁチビ!みんなはお前のことを意気地なしって言ってたけどさ〜」

そこまでいうと未来のボクシング世界チャンピョンは

小さな子どものようにボロボロと涙を流した

涙の粒はおおかた雪に吸い込まれた

でもいく粒かはウーリの死んだように青い顔に落ちた』という文章があります

しかしこの事件をきっかけに、またみんなの友情も深まり

ウーリの見せた勇気も無駄にはならなかったという展開です

でもこれのせいでウーリは舞台に立てず…

そういう間の悪い子っていますよね(笑)

 

飛ぶ教室 [ エ-リヒ・ケストナ- ]

「飛ぶ教室」の魅力

秀才で絵の上手なマルティンが汽車賃がなくて

クリスマスに家に帰れないというエピソードがあります

彼が「自分はお金がなくてクリスマスに家に帰れないんだ」ということを

決して誰にも言わないんですね…先生にも友達にも

ボクは遅い汽車で帰るんだ、という素振りをするんです

このぐらいの少年ていうのは、一番肝心なことを言葉にしないんだな〜

「心のなかで泣くこと厳禁」てことを自分で自分に言い聞かせる

あ!ここがまだ子どもっていうかな〜

あまりにもデリケートで豊かな感受性を失ってない子どもってのは

本当に肝心なことは言わないんだ…

そこに、気がついて手を差し伸べるのが「正義さん」なんです

だから大人ってのは子どものことをよ〜く見てないとダメだな〜

それぞれの少年たちがもってる優しさとか忍耐強さとか勇気

そういうものをちゃんと大人たちが気付いて褒め称えてあげないと

子どもってのは生きていけないんだな〜

ケストナーにはその視線があるんですよね…

少年たちひとりひとりを肯定している、そのために大人たちも努力を惜しまない

「正義さん」も「禁煙さん」も子どもたちを理解しようとして

常に子どもたちに心を寄せている

少年どおしの友情の物語でもあるし

大人と少年たちの信頼関係の話でもあるし

大人どおしの友情も出てくるんですよね…そして最後!

「泣くこと厳禁」と我慢していたマルティンがちゃんとおうちに帰れる

そしてそこには当然家族の愛も描かれているクリスマスにピッタリのお話です

こんなきれいな涙を流せる作品は大変貴重だと思いました

飛ぶ教室 [ エ-リヒ・ケストナ- ]

最後に…

以前、ケストナーの童話「点子ちゃんとアントン」を取り上げた時

ナチスが政権を取ったあとケストナーの著作も焼かれ

本を出すことも禁止されました

今回の「飛ぶ教室」が発売されたのは1933年

まさにナチスが政権を取った年なんです

そんな過酷な時代の中でもケストナーはひるむことなく

童話をとおして子供たちへ大きなメッセージを送り続けました

世界の歴史には賢くない人々が勇気を持ち

賢い人々が臆病だった時代が幾らもありました

これは正しいことではなかった

この言葉は、子供だけでなく、大人にも強く届くメッセージです

飛ぶ教室 [ エ-リヒ・ケストナ- ]