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レベッカ 上巻 ダフネ・デュ・モーリア著 小川洋子 藤丸由華 Melodious Library 2017/2/5

小川洋子 藤丸由華 Melodious Library

小川洋子 藤丸由華 Melodious Library

2017/2/5

レベッカ

イギリスの作家ダフネ・デュ・モーリアの長編小説「レベッカ」

この題名を聞くとヒッチコック監督の映画「レベッカ」を思い出す方も多いと思います

1940年に制作されましてアカデミー賞の最優秀作品賞と撮影賞を受賞しています

今回読んでいくのは、その原作で、映画が制作された2年前の1938年に刊行されました

映画は観たことがあるけれど、原作を読んだことはないという方もいらっしゃるのではないでしょうか?この機会にぜひ味わってみましょう

第1章

早速第1章から読んでいきましょう…まず書き出しが印象的ですよね〜

「ゆうべ、またマンダレーに行った夢を見た」という一行からはじまります

この一行に実は、実はいろいろな情報が含まれております

まずマンダレーと言う言葉ですよね〜場所のようですけれども…

この時点で読者は、どこの何をさしているのかわかりません

まぁ結局このマンダレーというのが、物語の舞台となるイギリスの広大なお屋敷と

いうことが、いずれ分かってきます

で、このマンダレーという言葉の響きがね…耳に残りますね…

そして「また」という言葉がありますのでね

語り手がマンダレーと密接な関係があるんだな、ということもわかりますし

「夢を見た」ということは、今彼女はそこにいないということもわかります

そしてそのあと、この夢に出てきたマンダレーについての描写が続きます

夢の中では、マンダレーは手入れもされずに荒れ放題になっております

この描写がとても洗練されていて、美しいんですね〜例えば

「再び大自然が天下を取ったのだ、密かに少しづつ、何げないようでいて

執拗な指先を私道にも伸ばして侵入してきたのだ

以前からのしかかるような圧迫感を与えていた林が、ついに凱歌をあげたのだ」

というような文章がありまして、このマンダレーの荒れたもようが印象的に描写されています

そして第1章は、こう結ばれております

「マンダレーはもうないのだから」と…

いかにもね、何かが起こりそうな、しかも良くないことが起こりそうな予感に満ちております

そしてこの1章の中に、こういう一行がさりげなく挿入されています

「この屋敷は墓所、私たちをおびやかした不安や苦しみは廃墟に埋められ

二度と蘇ることはない」

ラストまで読んだときに、ぜひこの一行を読み返して欲しいんですね…

とにかくよく考えられた書き出しですね

第1章をすでにないものから書き始める…そこがね、文学の魅力を感じるといいますかね、文学の本質をついたところからスタートしている…これは期待が持てます

第2章

記憶は過去へと遡っていきます

主人公の「わたし」は21歳の、まだ若い世間知らずの女性です

その時、大金持ちの女性バンホッパー婦人という人に話し相手、旅のお供として雇われております

そういう雇い方があるということが驚きなんですけどね…笑

舞台はこの時点では地中海に面したモンテカルロのコートダジュールホテル

いかにもお金持ちが暇をもてあましてダラダラと優雅に過ごしているという雰囲気です

「わたし」の外見としましては、全然お化粧っ気もない、まっすぐのショートヘア

自分で編んだセーターを着ているような女の子なんです

バンホッパー婦人のあとにくっついて、ビクビクしながら臆病な子馬のようにしかふるまえない…

彼女は、非常に気の毒な境遇で両親に死に別れて身寄りがない

本来、こういう上流階級には不慣れな女性で、ホテルのスタッフからも軽く扱われてね…ちょっと気の毒な面もあるんです

さらにこのバンホッパー婦人ていうのがね、ほとんどここしか登場してこないんですけれど、強烈な個性をまた発揮しておりますね…俗物の極みみたいな女性ですよね

自己中心的で、自己顕示欲の塊、有名人・お金持ちが大好き、身分の高い人が大好き

主人公の「わたし」に対す態度も尊大で思いやりのかけらもない…

そのバンホッパー婦人が、ある人物を見つけます…ホテルでね

「マックス・デ・ウィンターよ!マンダレーの持ち主」

いよいよ、ここでもう一人の登場人物が登場いたします

マキシムとの出会い

主人公が出会ったマキシム・デ・ウィンターとは何者なのでしょうか?

イギリスにある大邸宅マンダレーの持ち主です。42才

主人公の「わたし」とは年が離れております

彼は不幸なヨットの事故で奥さんを亡くしたばかりで

その傷を癒やすためにひとりでモンテカルロに来ている

ですから当然、暗い影を落としてます

しかし遠慮のないずうずうしいバンホッパー婦人がね…グイグイ迫っていくわけです

お金持ちの男ですから…そういうバンホッパー婦人を差し障りなくうまく扱うあたり

世慣れた大人の男性だな…という印象です

で主人公の「わたし」に対しても見下すことなく、優しく接しているんです

このウィンター氏と主人公の「わたし」急接近していきます

ここでバンホッパー婦人が重要な役割を果すんですけれど

婦人がインフルエンザにかかって寝込んじゃうんですね…つまり奥に引っ込む

そのことによって「わたし」は婦人から解放されまして

マキシムと二人ですごす時間が持てるようになるわけです

で、二人でモンテカルロの山へドライブに行くというシーンがあります

その山の頂上で「わたし」がちょっとした異変というか違和感を感じる場面があります

「彼が断崖の淵ギリギリに車を停める」

もうすごく危険を感じるところまで車を停めて、不安にかられた「わたし」が

「ここご存知なんですか?前にいらしたことあるんですか?」と尋ねても

声が聞こえていないような、もうすっかり「わたし」の存在など忘れたように

彼が別な世界に行ってしまっている

「彼との間に陰鬱な空気が流れる」

何かここに彼の秘密が隠されているらしいな〜という…

ここにもほのめかしがね…あるわけです

そして「わたし」は、車の中にあった詩集を彼から借ります

その詩集のトビラにサインがしてあるわけですね…ここにはじめて

「マックスへ、レベッカより 5月17日」

このレベッカが、亡くなった奥さんなんです

はじめてここに、奥さんが登場するわけなんですけれど

このレベッカはすでにヨットの事故で死んでいるこの奥さんが

どんどん存在感を増していくことになります

結婚

そしてなんと「わたし」は出会ってたった数週間で

このマキシムと結婚、ウィンター婦人になってしまいます

ちょっと危険な香りがしますね〜「わたし」は世間知らずの純な女性です

でも、年上のこういう洗練された大人の男性にコートを貸してもらうだけで

女学生のように胸が高鳴っておりますね…

そしてインフルエンザが治ったバンホッパー婦人が

気まぐれにまた、アメリカの娘のところに行くと言い出します

「わたし」も一緒について行かなくてはいけない、マキシムとのお別れです

その時点になって彼女はね「自分はマキシムを愛してるんだという」ことを

はっきり、悲痛なまでに自覚します

で、いよいよホテルを発つという最後のときにね

この「わたし」の気持ちを見透かすように、マキシムがプロポーズします

「選ぶ自由は君にある。バンホッパーさんとアメリカに行くか僕とマンダレーに帰るか、どっちかだ」と…

そう言われたときに「わたし」はまた、ピント外れにね

「あ、秘書か何か必要なんですか?」ていうんですよね…笑

「バカだね…結婚して欲しいって言ってるんだよ」ということになります

するとね、また「わたし」が可愛いんですけれど

「あの男性が結婚するような思うタイプじゃないと思うんですけれど」

ていうふうに言うんですよね…とにかく自分に自信がない女の子ですから

「もう本当にショックですらあった。まるで国王に申し込まれたみたいで

嘘くさくて実感がない」

これは正直な感想でしょうね〜

そこをね…またマキシムがうまいんですね、半分面白がってでしょうけど

「これからはバンホッパーさんのコンパニオンじゃなくて

僕のになるわけだけど、仕事内容はほとんど同じだな」

でもこれ本音なのかな?と思ったりね、実はコレ怖いセリフかな…と思ったり

ちょっとね〜もうすでに大人になった私からすると

マキシムに主人公の彼女ほど純粋なあったかどうか?疑問が残りますね…

マンダレーでの生活

そしてもう、瞬く間にマンダレーでの生活が始まっちゃいます

召使がたくさんいるような生活です…近所に人々がぞろぞろ新婦を見に来る

それだけでもストレスなんですけれど、もっと厄介な人物があらわれます

二人あらわれます

一人は、家政婦頭のダンバーズ婦人

そしてもう一人は、死者レベッカですね…

このダンバーズ婦人というのが家の細々としたことを取り仕切っている

マンダレーにはなくてはならない人だというんですけれど

マキシムもね…ダンバーズ婦人に任せておけばいいんだと…

とっても言葉遣いも丁寧なんですけれども、心のなかでは

「お前なんかには心を許すものか」と冷淡さが見え見えです

そしてマンダレーは美しいお屋敷です、お庭も完璧

しかし当然ながら、レベッカは死んだばかりですから

前妻の存在の名残があちこちに残っております

それが色んな形で登場してきます…例えばさっき出てきた詩集

あるいはレインコートのポケットの中から出てきたハンカチ

レベッカが使っていた閉ざされた部屋…

それを「わたし」がその部屋のことを気にするとダンバーズ婦人が

「いつでもお見せしますよ」ていうんですよ

あるいはレベッカが使っていたという書き物机

あるいは重要なこれから問題の場所となっていく浜のコテージ、ボート小屋

こういう色んな具体的な事物によってレベッカの影が常にこの家を満たしている

その慣れない生活の上に、最初っから何か自分が100%受け入れてもらえないかのような不安を感じつつ、新婚生活は始まります

仮装舞踏会

ここでどうしても触れておきたいのは上巻のラストなんです

かつてマンダレーでは盛大に仮装舞踏会が催されていたようなんです

美貌の持ち主でみんなに愛されていた才気あふれるレベッカが

完璧にその舞踏会をしきっていた

友だちたちがその舞踏会を再開してほしいと懇願します

で久しぶりにそれが開催されることになります

さて「わたし」は何に扮したのか?

これがね〜ダンバーズ婦人の罠にかかっちゃうんですね〜

マキシムを喜ばせようと思ってある格好をするんですけれど

それは実はね、マキシムをとても驚かせる、凍りつかせるような扮装だったんです

そのときのダンバーズ婦人の顔

「勝ち誇った忌まわしい顔を「わたし」は生涯忘れられないだろう

悪魔が狂喜している顔だった」

怖いですね〜

これがまた上巻のラストというのが、うまい編集だなと思いますね…

Q、今週は上巻を読んできましたがいかがでしたか?

今、上巻のラストをご紹介しましたが

それを聞いて下巻を読まずにいられる人がいるでしょうか?

来週もこの番組をぜひ聞いていただきたいんですけど

もうぐいぐいひきこまれますよね〜

ただ単にストーリーが流れていくというのではなくて

具体的な一場面一場面の積み重ねによって「わたし」が追い詰められていくんですよね

そこに謎があることは確かなんだけど、この正体がなかなか見えてこない

そのあたりの焦らし方がすごくうまいですし、本当に映画的なんですよね

一つの場面、一つの場面が非常にくっきり映像的に浮かび上がるように書いています

事情を説明することによってページが進んでいくんじゃなくて

ページをめくることによって、スクリーンの場面が移り変わるようにね…

しかもその背景としてのマンダレーがとても美しいということがありますよね

そしてもう1点重要なのは、結局主人公「わたし」の名前が出てこないんです

最初の方にまだ結婚する前に、二人が知り合ったばかりのときに

マックスが「とても素敵な独特の名前だね」と言います

あれ?どんな名前だったかな?と思って

最初をめくりなおして、読み落としたかと思ったんですけれど

その素敵な独特の名前って出てきてないんですよね…

こういう描写もあるんです

「マックスの方はわたしをファーストネームで呼んでいた」ていうね…

しかしその名前がなんなのかわからないままなんです

つまり「わたし」の存在感が、名前がないことによって輪郭がぼやけるのと対象的に

余計レベッカという死者の名前がくっきりと浮かび上がってきます

生きている「わたし」よりレベッカの放ってる迫力の方が重みがあるって言いますかね…こっちに迫ってくる

このあたりも作者がどれだけ計算していたのか分かりませんけれど

読み手としてはこの作品の罠にかかっちゃいます…奥深い作品なんですね…