レベッカ 下巻 ダフネ・デュ・モーリア著 小川洋子 藤丸由華 Melodious Library 2017/2/12

小川洋子 藤丸由華  Melodious Library

2017/2/12

レベッカ

21才の若い主人公の「わたし」がモンテカルロのホテルで

年上の男性マキシム・デ・ウィンター氏と知り合って結婚します

このマキシム、イギリスの貴族でマンダレーという素晴らしいお屋敷に住んでおります

ところが前の奥さんを不幸なヨットの事故で亡くすという目にあっています

前の奥さんの名前が作品の名前にもなっている「レベッカ」なんですよね…

レベッカ

実際にマンダレーでの暮らしが始まりますと

主人公の「わたし」は今なお残り続ける前妻レベッカの存在にさいなまれていく

というお話なんです

レベッカ

仮装舞踏会 

主人公の「わたし」が結婚してマンダレーにやって来て

はじめて開く仮装舞踏会です

そこで「わたし」はお屋敷の楽団用バルコニーに飾られている肖像画を

そこに描かれている肖像画を模して作ったドレスを着ることにします

家政婦頭のダンバーズ婦人のアドバイスに従って…

ところがその格好はレベッカが生前同じようにしてたんですね

ですからマキシムは「まるでレベッカが生き返ってきたのか」という錯覚・恐怖に

おそわれる…そういうね、死者を呼び起こすようなことを悪ふざけでやったんだ…と思って、怒ってしまうんですね〜

「わたし」は当然悪気はないわけです

大慌てで服を着替えましてね、そんな舞踏会なんかとても出られないというのを

みんなに説得されて、義理のお姉さんとかにね…

説得されてどうにかごまかして出席します、しかし

「もう取り返しがつかないことをしちゃった、もうマキシムには許してもらえない」

と絶望に陥ります

そしてね、ダンバーズ婦人の企みに気づけなかった自分を責めます

パーティーが終わったその夜、マキシムはもうベッドには戻ってきませんでした

でこうなってくるともう、レベッカの存在感の大きさを思い知るんですね〜

主人公の「わたし」は…たとえばね

「そもそもマキシムはわたしのものではなく、レベッカのものなのだ

マキシムは今でもレベッカのことをおもっている、レベッカは今でもマンダレーの女主人なのだ、ここにわたしの居場所はない」

とどんどん弱気になっちゃうわけです

 

レベッカ

死者との戦い

「生身の人間となら争えるが、死んだ者とは戦えない」

そのとおりですよね…ですから戦う必要はないんですが一人相撲ですよね…

そこにいない、すでに死んだ人と競い合い、その人に嫉妬しているどうにもならない

戦いの渦中にまきこまれてしまっている…で

「わたし」と家政婦頭のダンバーズ夫人の間で言い合いが起こります

ここ、緊迫してますね〜いよいよダンバーズ婦人の本音が炸裂します

彼女はね、レベッカが子供の頃からず〜っと長く世話をしてきてほとんど母親

あるいは母親以上の関係を築いていたんですよね…二人の間には…

もうね…ダンバーズ婦人はね、レベッカと自分を同一化していたんだと思います

ほとんど同一人物のようにレベッカのことを愛しすぎていた

そのためにレベッカの死を受け入れることができないんですよね…

そしてダンバーズ婦人の口から意外な事実が語られます

実はね、レベッカはね…男性関係が自由すぎたんです

もうロンドンで出会った男たちは、みんなレベッカをひと目見たら夢中になった

「そういう男たちを週末にお屋敷で見かけたものです」と…

全然悪びれずに言います

ミセス・デ・ウィンターにとっては、つまりレベッカですね

ゲームと同じことなんだと…

誰もがミセス・デ・ウィンターに狂って嫉妬にもだえました

つまり当然、夫のマキシムも嫉妬していたということです

ダンバーズ婦人はね、だからレベッカが良くないと言ってるわけじゃないんです

そんなふうに色んな人を狂わせる程の魅力をレベッカが持っていた、すごい人なんだっってことが言いたいんです

「どうにもなりませんわよね、いくら頑張っても対抗できませんでしょ?」

と「わたし」に向かって言うんです

「死んでいるべきなのはミセス・デ・ウィンターではなく奥様の方でございます

下をご覧になって、簡単でございますよ、飛び降りたらいかがです?

首を折るのは苦しくございません、素早い楽な方法でございます、溺れるのとはちがいます」

と「わたし」に自殺を迫るところまでいきます

もうこの場面、本当に文学史に残る緊張感に満ち溢れた、しかもダンバーズ婦人の論理ってのは、ある意味どっかで狂ってる、間違ってるんですけれども、それを信じ切ってる人にとっては、真実そのものなんだな〜と思います

そこに巻き込まれちゃった本来平凡な女性だったはずの「わたし」まで

その狂気に染まっていく…そういうちょっと忘れがたいシーンです

レベッカ

マキシムのために戦う…

マンダレーの屋敷で仮面舞踏会が行われた翌日、大きな事件が起こります

なんとレベッカがなくなるきっかけとなったヨットが海底から見つかるんですね

ダンバーズ婦人に自殺を迫られるあの緊迫した瞬間にヨットが見つかるんです

実はね…レベッカがヨットで事故にあった時

すでに死体は海岸に打ち上げられておりまして

マキシムがそれを確認してその遺体は教会の地下に葬られております

ところがみつかったレベッカのヨットには、中に死体がある…

じゃぁヨットの中の死体は誰なんだ?ということになりますが、それは言わないほうがいいかと思います…

このこともあって、マキシムは激しく動揺します

ここでマキシムはあることを告白します…

「実はレベッカという女性は財産目当てで、浮気ばっかりする同しようもない女なんだ…僕はレベッカを憎んでいた…僕らの結婚は最初から茶番だった」

もう結婚生活は破綻してたっていうんですよね…

「お互い一度だって愛を感じたことはない、一瞬の幸せも分かち合ったことはない」と

ここまで激しく死んだ元奥さんを否定する…ここがまたすざましいんですけど

それを知った「わたし」は、大きな心の変化が訪れます

つまりそれまで、どうしようもない戦いを死者レベッカに挑んでいた「わたし」は

ここでようやくふっきれます

「心は軽く自由だった、もうわたしはレベッカを恐れていない、敵意も抱いていない

よこしまでふしだらで、芯まで腐っていたとわかったので、もう憎いとは思わない

レベッカはもはやわたしを傷つけることはできない」

ある意味、ようやく本当のあるべき自分の姿に戻ったというか

最初っからそう思ってればよかったわけです

死んだ人がどんなに美しい人であろうが、性根の腐った人であろうが

生きている人にはもうどうしようもないわけですから…

「わたしはもう世間知らずな若い女ではない、もう恐れない、わたしはマキシムのために戦う、レベッカが勝利したのではない、レベッカは敗れたのだ」

ちょっとこのあたりにくると、あれ?まだレベッカを負かそうとしてるのか?

死者はね、葬られたんだと思って明日からの新しい人生を歩んでいこうというふうにはならない、なれないんですね実は…

ある意味「わたし」は大人になります

もう召使やダンバーズ婦人にビクビクしたり、レベッカに劣等感を持ったりすることがなくなって、堂々と大人らしく振る舞えるようになります

しかしここで「マキシムのために戦う」この言葉が重要なポイントなんです

いや〜ね、レベッカって本当にすごい女の人だな〜って…

本当に勝利するのはレベッカなのか?「わたし」なのか?マキシムなのか?

これちょっと最後まで読んでもなかなかね〜わかんないですね…

レベッカ

衝撃的なラスト

実はこのあと沈んだヨットについての分析があります

何故沈んだのか?その沈み方が不自然じゃないかと…このあたりでマキシムが

刑務所に送られるかどうかというハラハラする展開がつづきます

このあたりがね…とっても論理的に話が運んでます

すごく緻密でね、ミステリーとしても筋がちゃんととおってます

本当に一流のミステリー、サスペンスの要素がはいってますよね

でもね、ミステリーの仕掛けがわかったからと言ってこの小説が100%理解できるわけじゃないんです

なぜかというと、人間関係の微妙な複雑さが絡んでくるわけです

法律的に、論理的にスパッと解決してスッキリできるという結末にはなっておりません

マキシムと「わたし」ダンバーズ婦人とレベッカ、レベッカと「わたし」

一人一人の登場人物の内面が、本当に深く掘り下げられております

読者としては、落ち着いて考えれば「わたし」とマキシムの取る行動っていうのはね

最終的には。法律的にも道徳的にも正しくないんです

しかしなぜか、彼女たちに肩入れしてしまってね…応援してしまう

それぐらいこの「わたし」という主人公が、ものすごく身近に感じられる

彼女の体温がページから伝わってくるんじゃないか?というような気がする

そしてもう一つの文学的魅力としては、ラストの一行です

これね、実はね、最も肝心な、最も作家の腕の見せどころである場面がね

一切書かれてないんです

どうしてここ書かないんだろう?よくここでやめる勇気があったな〜我慢したな〜っていう…

あえて言えばね…「灰が飛んできた。」って終わってるんですよ

これも本当に最後の言葉ですよね

そのちょっと前にね…「オーロラが見えるわ」みたいな描写があってね

オーロラが見えるのはでも、夏じゃない?みたいなね、今冬よね…

謎な、重要な情報を読み取ばすおそれがあります

だから最後の一行まで気を入れて読んでいただきたいんです

そしてその上でもう一回、上巻の第一章に戻っていただければ

この小説がどんなにすごいか、ということが伝わるんじゃないでしょうか?

レベッカ