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谷崎潤一郎 猫と庄造と二人のおんな 小川洋子 藤丸由華 メロディアスライブラリー 2017/2/19

小川洋子 藤丸由華 Melodious Library

小川洋子 藤丸由華 メロディアスライブラリー 2017/2/19

谷崎潤一郎 猫と庄造と二人のおんな 

谷崎潤一郎は「春琴抄」を発表した翌年の昭和9年に

この短編小説を執筆したと言われています

この小説にはリリーという名前の猫が登場します

2月22日は「ニャンニャンニャン」で「猫の日」ですので

その日を前に、猫にちなんだ作品を選んでみました

登場人物は庄造という男と彼に関わる二人の女「前妻と今の妻」

そして庄造が溺愛するリリーという名前の猫です

猫と庄造と二人のおんな 谷崎潤一郎 

書き出しからすでに面白いです

猫と庄造と二人のおんな 谷崎潤一郎 

前妻からの手紙

庄造の前妻・品子が、今の妻・福子に宛てた手紙から始まります

「あなたの家庭から唯ひとつだけ頂きたいものがあるのです

勿論貴方のあの人を返せと云うのではありません

実はもっともっと下らないもの、リリーちゃんがほしいのです」

つまり彼の女の理屈としては「あの人は嫌な私を追い出して

好きな貴方と一緒になりました、私と暮らしていた間こそ

リリーちゃんが必要でしたけれども、今になったらもう邪魔でしょ?

それともあの人、今でもリリーちゃんがいなかったら不足を感じるのでしょうか?

そしたら、貴方も私と同じように猫以下と見られているのでしょうか?

まあごめんなさい、つい心にもないことを言うてしもうて…」と…

その前にはね「おほほほほ」という笑い声もわざわざ字にしてあるんです

まぁこの品子というのは、相当な策士

自分を追い出してよろしくやっているらしい元夫と現妻・福子にね…

これ以上ないような揺さぶりをかけてるな〜

もうね…自分を捨てた男のことなんかきれいサッパリ忘れたほうが身のためだと

私なんか思うんですけどね…まぁ未練が残ってるんでしょうか?

しかし未練がましいと思われるのもシャクだと…そこで猫をうまく使うんです

猫と庄造と二人のおんな 谷崎潤一郎 

猫とアジ 

さぁこんな手紙を受け取った福子は冷静ではいられません

品子からの手紙の一字一句を胸に秘めて庄造と猫のリリーの様子を

それとなく福子は見ております

庄造は何をやってるかというと、小アジの二杯酢を肴に晩酌しております

リリーと一緒にアジを食べている…油にしみているお酢をまずスッパスッパと吸い取って、骨を噛み砕いて、それをすぐまたやるんじゃなくて、わざと背が届かないところに高く持ち上げたり、低いところに下げたりして、一生懸命リリーが飛びつこうとしている…ふたりで遊んでるわけですね〜

それを読むとね、庄造ってのはそういう女が取り合うような男にしては案外冴えない男だな〜っていうね…半袖のシャツに、毛糸の腹巻き、麻のもも引き…

ちょっとスタイリッシュではない男ですよね

しかもリリーとじゃれあう姿もお行儀がいいとも言えないし、子どもっぽいところもある

しかしまぁこの最初のね、小アジを一緒に食べている場面だけで

早くも庄造がリリーをどれだけ可愛がっているかということがよく伝わってきます

そして福子はね、その様子を見て

庄造に対して、品子にリリーを譲るように言います

この福子も、当然ながら結構気の強い女です

そのまた庄造に納得させる持っていき方が面白いなと思うのは

福子はね「実は自分はアジの二杯酢は嫌いなんだ、でもあなたが好きだと言うから作ったのに、13匹のうち、リリーに10匹もやったじゃないか」

ちゃんと数えてるところがね〜数字で迫る感じですよね…

「本当は、リリーに食べさせたいからアジの二杯酢を私に作らせたんじゃないか?」

と結構理詰めで責めていきます…結局、何が言いたいかって言うとね

「あんたワテより猫が大事やねんな〜」ということになるんです

「もうリリーをやってしまいなさい、あの猫いんようになったら一番ええねん」

と言うと急に涙がこみ上げてきたのか、福子が慌てて亭主に背を向けた

もう猫とアジで大騒ぎですね〜笑

猫と庄造と二人のおんな 谷崎潤一郎 

ダメ男庄造

この時のやりとりを聞いてるリリーの様子がとってもかわいいんですね〜

「少し食べすぎたという格好で、アジをもらいすぎてちゃぶ台の下にうずくまっていたリリーは

自分のことが問題になりだした頃、こそこそと庭へ下りて塀の下をくぐりぬけてどこかへ行ってしまったのが、まるで遠慮でもしたようで可笑しかった」

この小説全体に言えるんですけど、猫の描写が素晴らしいです

本当に猫のことを見ている人にしか書けない、描かれ方だな〜と思います

福子はね、リリーをやるかどうかハッキリしろと、庄造のおしりをつねって返事を迫ります

すると庄造は「イタイタ!もう堪忍」というばかりで

強引な福子にやり込められて、まあ半分しょうがなくリリーを品子にやることを承知します

ここでもう一人、重要な登場人物が出てきますね…

庄造の母親おりんです

ここで庄造が頼りにするのが、このお母さんなんです

久しぶりにダメ男の登場かな〜と思いました

つまり、お母さんに頭の上がらない優柔不断な商売も下手くそな男

そしてそもそも品子と別れたのもね、お母さんと品子の反りが合わないで

おりん主導でお母さんが別れさせた

そして今の奥さん福子と庄造とは従兄弟の関係にあるんですね

福子、これが資産を持ってるんです…なかばお金目当てでうまく息子とくっつけた

母親の計画通りにおさまってしまう庄造の不甲斐なさが、だんだん明らかになっていきます

結局リリーは、庄造にしてみれば、泣く泣く品子に譲ることになります

猫と庄造と二人のおんな 谷崎潤一郎 

品子とリリー

もう別れのシーンが切ないんです…庄造のリリー愛がよく出ています

仲介してくれる畳屋の塚本さんていう人がいるんですけど、その塚本さんにね

「そっと持っていってくれ」と

「お別れに本当は美味しいものを食べさせたいんだけど、乗り物酔いしたらいけないから、あっちへ着いてから食べさせてやってくれ」と言って

水煮の鶏肉を手渡す…なんかこのあたりの気遣いが本当に細やかだな〜

これと同じ気遣いを品子にもしてあげればよかったのにな…と思うんですよね

またここが福子の気の強いところで、庄造にそれ以降

「お風呂以外は当分外出禁止」を言い渡します

リリーに会いたさに品子のところへ行くんじゃないか、という疑いをもっています

庄造の性格のことをよくわかってるんですね…

一方リリーを譲り受けた品子の方は

離縁させられて、妹夫婦の二階に間借りしてるような状態で、少し肩身の狭い生活をしているんです

そこへ彼女が手紙を書いたとおり、リリーがやってきます

最初慣れないところにいきなり連れてこられたリリーは、ご飯も食べないで

一度は脱走するんですが、ほどなく品子のところへ戻ってきます

一気にここで、彼女たちは仲良くなります

実は品子は結婚してるときにリリーをいじめてたんですけれど

その過去をお互いに忘れたように

「これからは頼りになるのはお互いだけだ」ということを

確認し合うような眼差しで見つめ合ってね…もう品子の方も

突然たまらなく可愛くなって「リリーや」と言いながら夢中で抱きしめたと…

そういう展開になっていきます

 

猫と庄造と二人のおんな 谷崎潤一郎 

リリーのお産

リリーがはじめてお産をした時の、あの訴えるような優しい眼差しを忘れることができないのであった

そのときのリリーの心情をこんな風に代弁しています

「ああどうしたらいいのでしょう、なんだか急に体の具合が変なのです

不思議な事が起こりそうな予感がします、こんな気持ちはまだ覚えがありません

ねえどうしたというのでしょう、心配なことはないのでしょうか?」

とリリーがね、そう訴えかけるような、なんとも優しい眼差しで自分をみつめてきた

すると庄造はね「心配せんかてええねんで〜もうじきお前、お母さんになるねんが」

なんて優しい言葉なんでしょうか…

そうやって庄造が手助けしながら、リリーは赤ちゃんを生みます

これを読むとね、子猫のお父さんが庄造じゃないか?というぐらい

ふたりが密接に結びついてるな〜と思うんです

猫の描写なんですが、女性の描写そのものですよね〜猫だ人間だと区別しないで

リリーのことをとらえているこの場面は印象的でした

猫と庄造と二人のおんな 谷崎潤一郎 

猫と庄造

庄造は結局、福子の目を盗んでリリーの様子を見に行ってしまいます

しかし堂々と品子の家を訪ねるわけにもいかないので、裏庭に隠れてじっと様子をうかがうという…

もう半分ストーカーですよね〜リリーのね…笑

しかし色々あって、とうとう部屋に上げてもらって再会します

この時の庄造の幸福そうな様子…「リリー!リリーや!!」っていうね

庄造の愛情に満ちた声

「どうした?体の具合悪いことないか?毎日毎日毎日可愛がってもろとるか?」

というね〜

読んでく内にだんだんリリーが人間ぽくなってくる…肝心のリリーの方はね

案外庄造に対してはね、冷たい視線を向けてくるんですよ

 

猫と庄造と二人のおんな 谷崎潤一郎 

Q、この本の面白さはどんなところ?

庄造はダメ男と言いましたが、実はズルいところがあって、いかにも気弱な

母親の言いなりのような男に見せかけておいて

実はそれを巧みに利用してるんだ、という描写があるんです

表面的にはね、おりんや福子に操られているようだけど

実は、誰よりも彼が一番、品子を嫌っていたんだ、庄造は今考えても

「いいことをした、いい気味だったと思うばかりで不憫という感じは少しもおこらないのであった」

という強烈な拒絶反応を、前の奥さん品子に感じてたんですね…

のらりくらりしているようで、心の底には非常に冷酷さを持っている

それと裏腹のようなリリーへの執着ですよね

そして庄造が最後の方で

「品子もリリーも可哀想にはちがいないけれど、誰にもまして可哀想なのは自分ではないか?自分こそ本当の宿無しではないか?と思われてくるのであった」という自己憐憫ね…

これ、すごくユーモア小説的な軽い読み物のように見えますけれども

実は結構複雑な人間模様が出てきますし

人間の歪んだ心情をえぐり出している小説かもしれないな〜と思います

猫と庄造と二人のおんな 谷崎潤一郎